川口真理句集『双眸』
2週間ほど前になりますが、9月29日の毎日新聞朝刊で、坪内稔典さんの連載「季語刻々」にこの句。
遠来の目をしてゐたり秋桜 川口真理
同じ朝刊の歌俳欄、櫂未知子さんの「俳句月評」でやはり、
サルビアや古き英語のうつくしき 川口真理
港より昏きショールを巻きにけり
野の雨の燦爛として天瓜粉
急流の匂ひさせたるサンドレス
とあり、俳人の川口真理さんを知りました。いずれも第一句集『双眸』(青磁社、2014年8月刊)収録の句ですが、櫂さんは『双眸』について「手に取った瞬間から、『何かがある』と感じさせてくれる句集だった。まず、装丁が美しい。活字が美しい。そしてさらに嬉しいことに、見た目の美しさを裏切らない一句一句の質の高さが素晴らしい」と書いておられます。
「装丁が美しい」と聞けばじっとしていられません。インターネットで検索してみると『双眸』の写真がいくつか出てきました。「ほう!」と思いました。こういう感覚、どう説明したらいいんでしょう。「これは!」と思うものを目にしたときに、体の中がぱっと明るくなる感じ。灯る感じ。表紙の写真だけでしたが、私は灯りました。取り寄せました。ガビーン。なんたること。う、美しい。白い光沢のある、これはクロスなんでしょうか紙なんでしょうか。そして、躍る水のモノクロ写真!? 銀色の字で「双眸 川口真理句集」と横書き。字は凹んでいて、工夫がある様子(技法の名前が分かりません。すみません)。幅広の半透明の帯には「清澄な韻き 流露するリリシズム」とあります。いかにもいかにも。私は手にした瞬間「明澄」という言葉が思い浮かびました。小口は深い青。群青に染められています。うわあ、もう、どなたのお仕事かとページを繰るに、いや、そうなんじゃないかと予感しなかったといえばウソになりますが、「装幀 濱崎実幸」とお名前が。そうかそうか濱崎さんか。濱崎さんがキレッキレにキレている! 活字も美しいです。この活字の名を尋ねたいものです。
川口さんの句も素晴らしいです。私は俳句のよしあしは分からないのですが、
双眸の黒々として夜の秋
夏めくや卓上にある漂流記
ゆつくりとこの世にまぎれ春の駒
ゆふぐれのひかりの荒し蜆汁
湖底よりつめたき小鳥来てゐたり
脱ぎすてしもののつめたき一茶の忌
うたかたの帆をはりにけり半夏生
滂沱するところが母国去年今年
洛北の塔の奥まで冬銀河
といった句が好きです。ひんやりとしながら、滲みてくるものがあります。