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川を見てゐた手だらうかうつすらと電車の窓にしろき跡あり

装幀 覚え書き(続)

そうそう、肝心なことを書き忘れていました。今回の歌集作りを、なぜ青磁社にお願いしたのか。また、なぜ装幀を濱崎実幸さんにお願いしたのか。

青磁社を選んだ理由は2つあります。まず、自分の住んでいるところの近くで本作りをしてみたい、と思ったことが第一にあります。実のところ、本作りははじめから終わりまで、メールや郵送などですべて済ませることができます。編集者と直接会わなくともできます。遠方の出版社から出すことももちろん可能ですし、それが当たり前に行われていますよね。ただ、私は、もうちょっと距離の近い、手応えを感じながら進められる本作りをしてみたかった、というのが動機です。実際、自転車で青磁社に行ったり、青磁社の近くの喫茶店で謹呈札を書いたりしていました。

(青磁社に向かう途中の河川敷の紅葉が赤すぎて、赤い檻の中を走っているみたいだった、とか、喫茶店で2時間も居座っている間に何度もコーヒーを入れに来てくれた店員さんの名前が「マリア」さんだった、しかも、その後その喫茶店に行くたびに私のテーブルには必ずマリアさんが来る、など、どうってことないんだけどなんとなくいい思い出が、本作りに加わりました。あ、でも思い出は、近くても遠くてもできますね)

合理的なお話ではないので参考にはならないと思いますが、今回は自分が暮らしている町で歌集を作ることが、非常に大事なことに思われたのでした。

編集者に会わなくとも本作りはできると書きましたが、近くの出版社であれ遠くの出版社であれ、編集者には直接会った方が良いに決まっている、というのが本音です。はじめの打ち合わせの時に1度だけでもいいので、会って、じっくりと話すことができれば、お互いのテンポのようなものもつかめるし、その後のメールや電話、郵送でのやりとりもやりやすくなるでしょう。今回の私の場合は、「塔」でもよく知っている永田淳さんが編集者だったので、コミュニケーションに心配はありませんでした。その点から言えば、歌集作りに向けて、あらかじめ短歌のイベントや出版関連のイベントなどでさまざまな出版社の編集者の話を聞いたり、実際に話してみたりして、編集者を知っておくのもいいかもしれません。

青磁社を選んだ理由の2つ目は、濱崎さんに装幀をお願いしたかった、ということがあります。濱崎さんはさまざまなジャンルの本の装幀を手がけていらっしゃいますが、私は青磁社の歌集を通して知りました。濱崎さんにお願いするなら、つながりのある青磁社を通すのがいいだろう、というわけで青磁社にお願いしました。

最後に、濱崎さんにお願いした理由です。濱崎さん装幀の歌集をたびたび見てきて、枠にはまっていない感じがとても好きでした。平たく言うと、「ぶっ飛んでるな〜」と毎回思っていました(失礼ですね。すみません)。ぶっ飛んでいるのですけど、どこか心が微笑ませられる。それがなぜなのかは分析できないのですが(分析したくないですし)。まあ、こればかりは好みというか直感というか、「見たことのないものが見られるかも」という予感を勝手に抱いていましたし、そういうものによって私も動いているので、うまくは言えません。

「装幀放談」の前に濱崎さんのさまざまな装幀を振り返ってみて、触覚にうったえる装幀であることに気がつきました。「放談」の中で濱崎さんが何度か言われた「紙が好き」というシンプルな言葉は、すべてを包む回答として、心に深く残りました。