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川を見てゐた手だらうかうつすらと電車の窓にしろき跡あり

初めて知った。君の名前は光村という

 歌集のあとがきで活版印刷に触れましたが、写植の時代というのもあったんですよね。

文字の食卓

文字の食卓

 

 文字の、書体の印象を言語化するのはなかなか難しいのですが、書体の印象や感触みたいなものは確かにあります。重要です。主に写植の書体を取り上げて、その印象や感触をエッセイ風に記したのが『文字の食卓』。39種もの書体を取り上げています。やわらかい、時にノスタルジックな文章の合間に、書体の開発者の話が差し込まれ、「うおっ」と目が見開かれます。そう、書体には開発者がいる。書体も商品であるわけです。

私はこの本で、ある書体と20年以上ぶりの再会を果たしました。宮沢賢治の「やまなし」も、谷川俊太郎の「生きる」も、「竹取物語」も、その書体で読んだのです。「クラムボンはかぷかぷ笑ったよ」はやはり君が一番しっくりくる、と書体に話しかけたくなるほどのなつかしさ。その書体の名は、「光村教科書体」というのだとこの本で初めて知りました。通っていた小学校は光村図書出版の国語の教科書を使っていました。6年間も、この書体でいろんなものを読んだのだなあ。『文字の食卓』によれば、さまざまな書体メーカーがさまざまな「教科書体」を出していて、そのどれもが「小学校の児童が筆写の手本にできるように」学習指導要領で定めた「学年別漢字配当表」にしたがってつくられており、明朝体などより自然な手書き文字に近い、というのが共通の特徴、なんだそうです。なるほど。

余談ですが、世の中には出版社というものがある、ということを子供心に知ったのも教科書(と絵本)を通してではなかったかと。福音館書店と光村図書は、私にとって永遠のかっけー存在です。就職はかなわなかったけどね。